My Favorite Things

好きな曲とか

THERMOPYLAE/Raymond Carver

カーヴァーの詩集『NEW PATH TO THE WATERFALL(滝への新しい小径)』の中の、『THERMOPYLAE』の和訳。

テルモピュライ

ホテルに戻って、彼女が窓の前で赤い髪をほどいて、櫛を当てながら、深く物思いに耽ってどこへともなく視線を漂わせるのを見ていると、何故だかヘロドトスが書いた古代スパルタ人たちについての話を思い出してしまった。彼らはペルシャ軍から門を守る任務を与えられ、それをやり遂げた。4日間にも渡って。その4日間の戦いの最初のこと、これはクセルクセス王自身も我が目を疑ったのだが、そのスパルタの戦士たちはそのような過酷な任務の中にあるにもかかわらず、自分達で作った木組みの壁の外側で、まるで警戒していないかのように寝そべると、武器を置いて丁寧に丁寧に彼らの長い髪に櫛を当てたそうである。それは彼らが別の普通の日に、別な特筆することもない作戦に従事している時と変わらない振る舞いだった。なぜ決死の戦いの前なのに、あのように緊張せずに振る舞えるのか、クセルクセス王が知りたがると、ある側近が言った。「あの者たちは、頭を綺麗にした時には、すでに死ぬ覚悟を決めているのでございます」と。

彼女はすでに髪をとき終わり、骨の柄のついた櫛を置いていた。そして窓とその外の、午後の素朴な光に近づいていた。何かが軋むような音を立てながら窓の下で動き、彼女の注意を引いた。だが彼女は一度視線をやっただけ。そして今もう彼女は、窓の方を見てはいない。