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And death shall have no dominion /そして死は覇者にあらず

And death shall have no dominion. …そして死は覇者にあらず。
弔辞として有名な詩。作者はイギリスのディラン・トマス。合唱曲や朗読がyoutubeにもいくつか。

https://youtu.be/-Ubn4i3T_VQ
Sverre Berghの作曲。かっこいい。

題の訳は「そして死に支配させはしない」など色々あり、解釈によっては新訳もできようが、伝統的な直訳調のものを拝借した。


訳。


And death shall have no dominion.
Dead man naked they shall be one
With the man in the wind and the west moon;
When their bones are picked clean and the clean bones gone,
They shall have stars at elbow and foot;
Though they go mad they shall be sane,
Though they sink through the sea they shall rise again;
Though lovers be lost love shall not;
And death shall have no dominion.

そして死は覇者にあらず。
死者たちは、風と西の月の下で衣服を剥かれて、元が誰であろうとも同じになってしまった。
彼らの肉は食われ骨となり、骨は土となろうとも、肘と足の所には、星々がまだ残っている。
気が触れた者もまた正気にかえる。
海に沈んだ者も必ず浮き上がる。
恋人達が死んでも愛は死なない。
そして死は覇者にあらず。

And death shall have no dominion.
Under the windings of the sea
They lying long shall not die windily;
Twisting on racks when sinews give way,
Strapped to a wheel, yet they shall not break;
Faith in their hands shall snap in two,
And the unicorn evils run them through;
Split all ends up they shan't crack;
And death shall have no dominion.

そして死は覇者にあらず。
一度海の渦の底に長く横たわっていた者達を、渦が殺す事は出来ないように、
腱が切れて刑架の上で身を捩り、車輪に括られても死者達は決して屈しない。
信念が二つに折られ、身体は角の有る悪魔に突き刺され、
全てが砕けても死者達は砕けない。
そして死は覇者にあらず。

And death shall have no dominion.
No more may gulls cry at their ears
Or waves break loud on the seashores;
Where blew a flower may a flower no more
Lift its head to the blows of the rain;
Though they be mad and dead as nails,
Heads of the characters hammer through daisies;
Break in the sun till the sun breaks down,
And death shall have no dominion.

そして死は覇者にあらず。
死者の耳には鴎の声も聞こえない。波が岸に打ち寄せる音もまた届かない。
風に吹き散らされた花は、もはや雨の中で頭を伸ばす事はない。
だが気が触れて、死んで釘のように冷えた者達が、生きていた時の気骨を滾らせ、埋葬された墓の上の花どもを打ち壊す。
日の下で、焼かれ塵となるより前に、彼らは墓を壊し終わる。
そして死は覇者にあらず。





第一連は中原中也の「骨」を思い出す。
第一連の後半の見事な反語。
気が触れた者も、正気にかえる。
海に沈んだ者も、また浮き上がる。
恋人達が死んでも、愛は死なない。
そして死は覇者にあらず。

第二連の、死者は一度死んでいるので肉体的のみならず精神の死さえも超越している。
という考え方は視点としては新しいと感じた。

第三連は谷川俊太郎の「死と炎」を連想させる。
せめて好きな歌だけは聴こえていてはくれぬだろうか、私の骨の耳に。

そして死は覇者にあらず。という、リフレインが、これ以上ないくらいに効いている。



Heads of the characters hammer through daisies;
がわかりにくく海外の詩のフォーラムでも論争になっているのを見たことがある。
前の連に花の話が出てくるので混乱するが、daisiesは
成句のpush up the daisies(墓で、肉が肥料になって、雛菊の生長を助ける)とかunder the daisies(雛菊の生えている墓の下で)を受けた表現としか思えない。
雛菊は墓に植えられる花らしい。
すると後の場面とも合わせて、花が植わった地面を叩き壊して出てくるって事になる。
その場合、hammerは動詞と考えるしかない。
他にも幾つかの解釈が有るらしいが、それらはあまりしっくりこなかった。


この詩を知ったのは「SCP-1958」から。
SCPの話を始めると長くなりすぎるので、今回はしないです。
以上です。